相続した土地を国に返せる?相続土地国庫帰属制度の条件・費用・売却との比較を解説
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続または遺贈によって取得した土地について、一定の要件を満たす場合に、所有権を国へ移すことができる制度です。
簡単にいえば、相続した土地を将来にわたって管理し続けることが難しい場合に、国に引き取ってもらうための制度です。
たとえば、次のようなケースで関心を持たれることが多い制度です。
- 遠方にある土地を相続したが、利用予定がない
- 山林や農地を相続したが、管理できない
- 固定資産税や草刈りの負担が続いている
- 売却を試みたが、買い手が見つからない
- 子ども世代に管理負担を残したくない
近年、相続した土地が放置され、所有者不明土地や管理不全土地となる問題が全国的に課題となっています。相続土地国庫帰属制度は、こうした問題を防ぐための制度のひとつです。
ただし、ここで注意したいのは、この制度が「いらない土地を何でも国に返せる制度」ではないという点です。
国が引き取った後に管理することが難しい土地、権利関係に問題がある土地、境界が不明な土地などは、申請できなかったり、申請しても承認されなかったりする可能性があります。
そのため、制度を利用できるかどうかは、土地の状態を個別に確認する必要があります。

相続放棄とは何が違う?
相続土地国庫帰属制度と混同されやすいものに「相続放棄」があります。
相続放棄は、相続人が亡くなった方の財産や債務を一切引き継がないための手続きです。家庭裁判所で手続きを行い、原則として相続の開始を知ったときから3か月以内に申述する必要があります。
一方、相続土地国庫帰属制度は、相続した財産のうち、一定の土地だけを国に引き取ってもらう制度です。
つまり、両者には大きな違いがあります。
相続放棄は、預貯金、不動産、借金などを含めて相続全体を放棄する手続きです。
相続土地国庫帰属制度は、相続した後に、不要な土地について国への帰属を申請する制度です。
たとえば、預貯金や自宅は相続したいが、遠方の山林だけは手放したいという場合、相続放棄では対応しにくいことがあります。そのような場面で、相続土地国庫帰属制度が選択肢になる場合があります。
ただし、制度を使うには条件があり、費用もかかります。相続した土地だからといって、必ず国に引き取ってもらえるわけではありません。
国に引き取ってもらえない土地の代表例
相続土地国庫帰属制度では、国が管理するうえで支障がある土地は対象外となります。
代表的なものとして、次のような土地があります。
建物がある土地
建物が建っている土地は、原則として申請できません。
たとえば、古家付き土地、空き家が残っている土地、未登記建物がある土地などは、そのままでは制度を利用することが難しいと考えられます。
「建物を解体すれば申請できるのか」と考える方もいますが、解体費用がかかるうえ、解体後も境界、残置物、地中埋設物、接道、権利関係などの問題が残る場合があります。
そのため、古家付き土地については、いきなり国庫帰属制度を考えるのではなく、まずは売却できる可能性や、解体せずに現況で引き受ける買主がいるかどうかを確認することが重要です。
抵当権などが設定されている土地
抵当権、地上権、賃借権など、第三者の権利が設定されている土地も注意が必要です。
国が土地を引き取った後に、他人の権利が残っていると、管理や処分に支障が生じます。
相続した土地に昔の抵当権が残っている場合や、借地・通行・利用関係が複雑になっている場合は、まず登記簿を確認し、権利関係を整理する必要があります。
境界が明らかでない土地
境界が明らかでない土地も、制度利用の大きなハードルになります。
土地の境界が分からないまま国が引き取ると、隣地所有者とのトラブルや管理上の問題が発生する可能性があります。
特に、古くから所有している土地、山林、農地、地方の宅地では、境界標が見当たらない、測量図が古い、隣地との認識が違うといったことがあります。
ただし、制度上、必ずしもすべてのケースで確定測量図や境界確認書の提出まで求められるわけではありません。とはいえ、現地で境界を説明できない状態では、申請に支障が出る可能性があります。
売却を検討する場合でも、境界の問題は価格や買主の判断に影響します。国庫帰属制度を使う場合も、売却する場合も、境界の確認は非常に重要です。
通路・水路・他人の利用が絡む土地
現に通路として使われている土地、水路、ため池、用悪水路など、他人の利用や公共的な利用が絡む土地も注意が必要です。
たとえば、近隣住民が通行している私道の一部、農業用水路に関係する土地、事実上の通路になっている土地などは、単純な空き地とは扱いが異なります。
このような土地は、所有者本人が「使っていない」と思っていても、地域の中では重要な役割を持っている場合があります。
崖・擁壁・土壌汚染・地中埋設物などがある土地
崖や急傾斜地、老朽化した擁壁、土壌汚染、地中埋設物、放置された工作物などがある土地も、承認されにくい可能性があります。
国が引き取った後に、通常の管理を超える費用や労力がかかる土地は、制度の趣旨に合わないためです。
たとえば、次のような土地は注意が必要です。
- 崖地や急傾斜地
- 老朽化した擁壁がある土地
- 大量の残置物がある土地
- 地中に建物基礎や廃材が残っている土地
- 土壌汚染の可能性がある土地
- 竹林や雑木が繁茂し、管理が難しい土地
このような土地は、国庫帰属制度だけでなく、売却時にも買主が慎重に判断するポイントになります。
申請できない土地と、承認されにくい土地の違い
相続土地国庫帰属制度では、大きく分けて「申請の段階で問題になる土地」と「申請後の審査で問題になる土地」があります。
申請の段階で問題になる土地としては、建物がある土地、担保権などが設定されている土地、通路などとして使われている土地、境界が明らかでない土地などがあります。
一方、申請後の審査で問題になる土地としては、崖がある土地、管理や処分を阻害する有体物がある土地、地中埋設物がある土地、近隣との争訟が必要な土地、通常の管理・処分に過分な費用や労力がかかる土地などがあります。
この違いは、実務上とても大切です。
なぜなら、申請できそうに見える土地でも、審査の段階で不承認になる可能性があるからです。
また、申請時には審査手数料が必要であり、申請を取り下げた場合や却下・不承認となった場合でも、手数料は返還されません。
そのため、制度を利用する前には、現地確認、登記簿の確認、境界の確認、建物・残置物の有無、権利関係の整理を行うことが大切です。
費用はいくらかかる?審査手数料と負担金
相続土地国庫帰属制度を利用する場合、主に次の費用がかかります。
- 審査手数料
- 負担金
- 必要に応じた測量費用
- 建物解体費用
- 残置物撤去費用
- 専門家への相談・依頼費用
まず、申請時には土地1筆あたり14,000円の審査手数料が必要です。
ここでいう「1筆」とは、登記簿上の土地の単位です。見た目には一つの土地に見えても、登記上は複数の筆に分かれていることがあります。その場合、筆数に応じて審査手数料が必要になります。
また、申請が承認された場合には、負担金を納付します。負担金は、国が土地を管理するための費用にあたるものです。
負担金は原則として20万円が基本ですが、土地の種目や面積、所在する区域などによって変わる場合があります。宅地、農地、森林などでは、条件によって金額が異なることがあるため、個別確認が必要です。
注意したいのは、制度利用の費用が審査手数料と負担金だけでは済まない場合があることです。
たとえば、古家付き土地であれば解体費用がかかる可能性があります。境界が不明な土地であれば、測量や隣地との確認が必要になる場合があります。残置物があれば撤去費用がかかります。
つまり、国庫帰属制度は「無料で土地を引き取ってもらえる制度」ではありません。
土地によっては、制度を利用するための準備費用が大きくなることがあります。そのため、費用を払って手放す前に、売却できる可能性を確認しておくことが大切です。
申請前に確認したい実務チェックリスト
相続土地国庫帰属制度を検討する前に、次の点を確認しておきましょう。
1. 登記名義は誰になっているか
まず確認したいのは、登記簿上の所有者です。
亡くなった親や祖父母の名義のままになっている場合、相続登記が必要になる可能性があります。
相続人が複数いる場合は、誰がその土地を取得するのか、遺産分割協議が必要になることもあります。
2. 相続人全員の話し合いはできているか
土地を手放すには、相続人間の合意が重要です。
一部の相続人は売却したい、一部の相続人は残したい、別の相続人は国庫帰属制度を使いたいというように、意見が分かれることもあります。
土地の処分方針を決める前に、相続人同士で方向性を確認しておくことが大切です。
3. 建物や工作物はないか
建物がある土地は、原則としてそのままでは申請できません。
空き家、倉庫、物置、車庫、ブロック塀、看板、残置物などがある場合も、土地の管理・処分に影響する可能性があります。
現地を確認し、土地の上に何が残っているかを把握しておきましょう。
4. 境界は分かるか
境界標、測量図、公図、地積測量図、隣地との確認状況などを確認します。
境界が曖昧な土地は、国庫帰属制度でも売却でも問題になりやすいポイントです。
特に、山林や農地、古くから所有している土地では、境界の確認に時間がかかることがあります。
5. 接道や利用状況はどうか
土地が道路に接しているか、実際に通行できるか、私道負担があるか、近隣住民が通路として使っていないかを確認します。
接道状況は売却価格にも大きく影響します。
また、他人の通行や利用がある土地は、国庫帰属制度の利用にも影響する可能性があります。
6. 固定資産税や管理費用はいくらか
土地を持ち続ける場合、固定資産税や草刈り費用、管理費用がかかります。
一方、国庫帰属制度を使う場合にも、審査手数料や負担金、準備費用がかかります。
売却できる可能性がある土地であれば、費用を払って手放す前に、売却査定を行う価値があります。
相続登記が済んでいない場合はどうする?
相続した土地の名義が、亡くなった方のままになっているケースは少なくありません。
しかし、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されています。
相続によって不動産を取得した相続人は、原則として、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
また、遺産分割協議によって不動産を取得した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
相続土地国庫帰属制度を検討する場合でも、売却を検討する場合でも、登記名義の整理は重要です。
名義が整理されていない土地は、買主への所有権移転もできませんし、制度利用の前提確認にも影響します。
そのため、相続した土地については、まず登記簿を確認し、必要に応じて司法書士へ相談することをおすすめします。
国庫帰属制度と売却、どちらを先に考えるべきか
相続した土地を手放したい場合、いきなり国庫帰属制度を選ぶのではなく、まずは売却できる可能性を確認することをおすすめします。
理由はシンプルです。
国庫帰属制度は、費用を払って土地を手放す制度です。
一方、売却できる土地であれば、費用を払うのではなく、売却代金を受け取れる可能性があります。
もちろん、すべての土地が売れるわけではありません。
接道が悪い土地、市街化調整区域の土地、農地、山林、境界が不明な土地、古家付き土地、再建築が難しい土地などは、一般の買主が見つかりにくいこともあります。
それでも、次のような可能性は確認する価値があります。
- 隣地所有者が購入を希望する可能性
- 資材置き場や駐車場として利用できる可能性
- 建物付きのまま古家付き土地として売却できる可能性
- 農地や山林として引き受ける買主がいる可能性
- 不動産会社や買取業者が検討できる可能性
特に、隣地所有者にとっては、隣の土地を取得することで敷地を広げられる、通路を確保できる、将来の利用価値が高まるといったメリットがある場合があります。
市場で広く売れにくい土地でも、隣地にとっては価値がある土地ということもあります。
そのため、相続土地国庫帰属制度は「最初に選ぶ制度」というより、売却や隣地相談などを検討したうえで、それでも引き取り手が見つからない場合の選択肢として考えるとよいでしょう。
千葉県・市原市周辺で相続土地をお持ちの方へ
千葉県内でも、市原市、千葉市、袖ケ浦市、木更津市、茂原市、いすみ市、大網白里市、長生郡などでは、相続した土地の相談が増えやすいエリアです。
特に、次のような土地は、相続後に悩みやすい傾向があります。
- 実家の敷地
- 古家付き土地
- 市街化調整区域の土地
- 農地
- 山林
- 接道条件が弱い土地
- 遠方に住む相続人が管理しにくい土地
- 空き家と一体になっている土地
- 草刈りや近隣対応が必要な土地
市街化区域内の宅地であれば、売却できる可能性が比較的高い場合があります。
一方、市街化調整区域の土地、農地、山林、接道が弱い土地などは、売却に時間がかかったり、買主が限定されたりすることがあります。
ただし、売りにくい土地だからといって、最初から国庫帰属制度しかないと決めつける必要はありません。
土地の価値は、場所、道路、面積、地目、法令制限、周辺の利用状況、隣地との関係によって変わります。
不動産会社の立場から見ると、相続土地の出口はひとつではありません。
- 一般の買主へ売却する
- 隣地所有者へ相談する
- 買取業者へ相談する
- 建物を解体せず古家付きで売却する
- 解体後に更地として売却する
- 管理を続けながら将来の売却を待つ
- 国庫帰属制度を検討する
このように複数の選択肢を比較したうえで、費用と手間、将来の負担を総合的に判断することが大切です。
司法書士・土地家屋調査士・不動産会社の役割
相続した土地を手放す場合、相談先はひとつとは限りません。
土地の状態や悩みの内容によって、相談すべき専門家が変わります。
司法書士に相談する場面
司法書士は、相続登記や名義変更、遺産分割協議書の作成支援、登記簿上の権利関係の確認などで重要な役割を担います。
次のような場合は、司法書士への相談が必要になりやすいです。
- 相続登記が済んでいない
- 登記名義が古いままになっている
- 相続人が複数いる
- 遺産分割協議が必要
- 抵当権などの登記が残っている
- 国庫帰属制度の申請手続きについて相談したい
相続土地国庫帰属制度を検討する場合でも、まず登記名義や相続関係を整理する必要があります。
土地家屋調査士に相談する場面
土地家屋調査士は、境界や測量、不動産の表示に関する専門家です。
次のような場合は、土地家屋調査士への相談が必要になることがあります。
- 境界標が見つからない
- 隣地との境界が曖昧
- 測量図が古い
- 登記面積と実測面積が違いそう
- 分筆や地積更正が必要
- 建物滅失登記が必要
境界の問題は、国庫帰属制度でも売却でも重要です。
土地の境界が不明なままでは、買主が不安を感じるだけでなく、制度利用にも支障が出る可能性があります。
不動産会社に相談する場面
不動産会社は、その土地が売れる可能性があるか、どのような買主が考えられるか、売却する場合にどのような課題があるかを確認する役割を担います。
次のような場合は、不動産会社への相談が有効です。
- 売却できる土地か知りたい
- いくらくらいで売れる可能性があるか知りたい
- 隣地への売却可能性を検討したい
- 古家付きのまま売れるか知りたい
- 解体して売るべきか判断したい
- 国庫帰属制度と売却のどちらがよいか比較したい
相続土地国庫帰属制度を使うかどうかを判断する前に、不動産会社へ売却可能性を確認することで、選択肢が広がる場合があります。
特に、費用をかけて土地を手放す前に、売れる可能性を一度確認しておくことは大切です。
まとめ
相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を手放すための有力な選択肢です。
遠方の土地、使い道のない土地、管理が難しい土地を相続した方にとって、将来の負担を整理する手段になる場合があります。
ただし、どのような土地でも国に引き取ってもらえるわけではありません。
建物がある土地、境界が明らかでない土地、抵当権などが設定されている土地、通路や水路として使われている土地、管理に過分な費用や労力がかかる土地などは、制度を利用できない可能性があります。
また、制度を利用するには審査手数料や負担金が必要です。土地によっては、測量費用、解体費用、残置物撤去費用、専門家費用なども発生します。
そのため、相続した土地を手放したい場合は、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- 登記名義と相続関係を確認する
- 土地の現況、境界、建物、権利関係を確認する
- 売却できる可能性を確認する
- 隣地所有者や買取希望者の可能性を検討する
- それでも難しい場合に、相続土地国庫帰属制度を検討する
国庫帰属制度は、売却できない土地の出口として有効な場合があります。
一方で、売却できる土地であれば、費用を払って手放すのではなく、売却によって現金化できる可能性があります。
辰巳地所では、千葉県内を中心に、市原市・千葉市・内房・外房エリアの土地、古家付き土地、相続不動産の売却相談を承っております。
相続した土地について、
「売れる土地なのか分からない」
「国庫帰属制度を使う前に、売却できるか確認したい」
「古家付き土地や管理できない土地をどうすべきか相談したい」
という方は、お気軽にご相談ください。
制度の利用を急ぐ前に、まずは売却や他の選択肢を含めて、土地の出口を一緒に整理していきましょう。
参考情報
※以下の参考情報は、2026年6月8日に確認しています。
法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
相続土地国庫帰属制度の対象者、申請できない土地、承認を受けることができないケース、審査手数料などを確認。
法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」
審査手数料が土地1筆あたり14,000円であること、制度利用時の基本的な考え方を確認。
法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
負担金の考え方、土地の種目や面積による算定、隣接する土地を一つの土地とみなして算定できる特例などを確認。
法務省「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」
建物がある土地、境界が明らかでない土地、土壌汚染、争いがある土地など、制度利用が難しい土地の要件を確認。
法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」
令和8年4月30日現在の申請件数、帰属件数、却下・不承認件数を確認。
東京法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)」
相続登記の申請義務、3年以内の申請義務、正当な理由なく違反した場合の過料について確認。
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