住宅購入の頭金とiDeCo|引き出せるお金・引き出せないお金の分け方
iDeCo(個人型確定拠出年金)で老後資金を積み立てながら、マイホームの購入を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
毎月の積立てを続けていると、運用資産が少しずつ増え、将来に向けた備えができていると感じられます。
一方、実際に住宅を購入する段階になると、売買契約時の手付金や購入諸費用、引越し費用など、まとまった現金が必要になります。
そこで気になるのが、iDeCoで積み立てた資産を住宅購入に利用できるのかという点です。
iDeCoは老後資金を準備するための制度であり、原則として受給可能年齢になるまで積立資産を自由に引き出すことはできません。
普通預金やNISAで保有する投資商品とは、必要なときに現金として利用できるかどうかが大きく異なります。
また、物件価格の全額を住宅ローンで借り入れる場合でも、登記費用や住宅ローン関連費用、仲介手数料など、購入代金以外にかかる費用への備えが必要です。
この記事では、iDeCoの引出し制限、住宅購入時に必要な資金、普通預金・NISAとの違いを解説します。物件価格の全額を住宅ローンで借り入れ、諸費用を自己資金で支払うケースを例に、老後資金と住宅購入資金をどのように分けて考えればよいのかも紹介します。
iDeCoで積み立てたお金は住宅購入の頭金に使える?
iDeCoの積立資産は、原則として老齢給付金を受け取れる年齢になるまで引き出せません。
例えば、35歳の方がiDeCoで300万円を積み立てていたとしても、その300万円を住宅購入の頭金や売買契約時の手付金として利用することはできません。
iDeCoは、公的年金に上乗せする老後資金を、自分で積み立てながら運用する私的年金制度です。
加入者本人が支払った掛金は所得控除の対象となり、運用益も原則非課税になるなど、長期的な資産形成を支える仕組みが設けられています。
その一方、老後資金を準備するという目的から、普通預金のように必要なときに自由に引き出せる仕組みにはなっていません。
iDeCoの老齢給付金は、原則として60歳から受け取れます。
ただし、60歳から受給するには、原則として60歳になるまでの通算加入者等期間が10年以上必要です。
通算加入者等期間が10年未満の場合は、その期間に応じて受給開始可能年齢が61歳から65歳まで段階的に繰り下がります。60歳以上で初めてiDeCoに加入した方については、加入から5年を経過した日から受給できる仕組みもあります。
受給可能な年齢に達した後は、所定の手続きを行い、年金や一時金などの方法で受け取ることになります。
また、iDeCoには例外的に「脱退一時金」という制度がありますが、国民年金の加入状況や通算拠出期間、資産額など、厳格な要件が設けられています。
住宅を購入するために資金が必要になったという理由だけで、積立資産を中途解約して払い戻してもらうことはできません。
そのため、まだ受給要件を満たしていない方が住宅購入を検討する場合、iDeCoの評価額を購入資金に含めず、普通預金など実際に利用できる資金を基に考える必要があります。
住宅購入では頭金が0円でも諸費用などの現金が必要になる
住宅購入に必要な資金を考える際には、まず頭金・手付金・購入諸費用の違いを確認しておきましょう。
頭金とは、物件の購入代金のうち、住宅ローンを利用せずに自己資金で支払う部分です。
例えば、3,500万円の住宅を購入し、住宅ローンを3,500万円借り入れる場合、購入代金に対する頭金は0円です。
一方、住宅ローンの借入額を3,000万円に抑え、残りの500万円を自己資金で支払う場合は、その500万円が頭金となります。
金融機関の審査や融資条件によっては、物件価格の全額を住宅ローンで借り入れることもできます。
ただし、頭金が0円でも、購入時に現金が必要になる場面があります。
その代表的なものが、売買契約時に支払う手付金です。
手付金は、一般に売買契約を締結する際に買主から売主へ支払うお金で、通常は最終的に売買代金の一部に充当されます。
例えば、3,500万円の住宅を購入する際、売買契約時に100万円の手付金を支払った場合、引渡し時に売主へ支払う残代金は3,400万円です。
手付金100万円が、物件価格3,500万円に追加されるわけではありません。
また、住宅ローンは引渡し時の決済に合わせて融資が実行されることが一般的です。そのため、物件価格の全額を借り入れる予定でも、売買契約時の手付金は一時的に自己資金で用意する必要が生じます。
物件価格3,500万円に対して住宅ローン3,500万円の借入れが認められた場合には、契約時に支払った手付金相当額を、決済時に自己資金へ戻す形で精算できるケースもあります。
ただし、融資実行後の資金の受渡しや、手付金相当額の精算方法は金融機関の取扱いによって異なります。物件価格の全額を借り入れる予定であっても、事前に確認しておきたい点です。
さらに、住宅購入では物件価格以外にもさまざまな費用が発生します。
具体的には、印紙税、登記費用、住宅ローンの事務手数料や保証料、火災保険料、固定資産税等の精算金、仲介手数料などです。
全国銀行協会では、住宅取得にかかる諸費用について、一般的に物件価格の5〜10%程度を目安として案内しています。
例えば、3,500万円の住宅なら175万〜350万円程度です。
ただし、実際の諸費用は新築・中古の違いや、住宅ローンの商品、仲介手数料の有無などによって変わります。
物件価格の10%という数字は、余裕を持って資金計画を立てる際の目安の一つとして考えるとよいでしょう。
また、引越し費用や家具・家電の購入費用など、入居に伴う支出も必要になります。
物件価格の全額を住宅ローンで借り入れる場合でも、購入諸費用まで自己資金なしで済むとは考えず、契約時・引渡し時・入居後に必要な現金を確認することが大切です。
普通預金・NISA・iDeCo|住宅購入に使えるお金の違い
住宅購入に使える資金を考えるうえでは、保有している資産の種類によって、引出しや現金化の条件が異なることを理解しておく必要があります。
普通預金、NISA、iDeCoの違いを比較してみましょう。
| 資産の種類 | 引出し・現金化の特徴 | 住宅購入資金としての考え方 |
|---|---|---|
| 普通預金 | 原則として必要なときに引出し可能 | 手付金や購入諸費用などに利用しやすい |
| NISAで保有する投資商品 | 途中売却可能。価格変動があり、現金化まで日数を要する場合がある | 売却金額と入金時期を確認する |
| iDeCoの積立資産 | 原則として受給要件を満たすまで引出し不可 | 受給可能になるまでは購入資金に含めない |
普通預金は、契約時や引渡し時に必要な資金を確保する方法として利用しやすいものです。
例えば、住宅の売買契約時に100万円の手付金が必要になると分かっていれば、あらかじめ普通預金にその金額を確保しておくことで、支払いに対応できます。
一方、NISAで投資信託や株式を保有している場合は、必要に応じて保有商品を売却し、現金化できます。
ただし、投資商品の価格は日々変動します。
現在の評価額が200万円だったとしても、実際に売却する際に同じ金額を受け取れるとは限りません。
また、投資信託などは、売却注文を出してから代金が受け渡されるまでに一定の日数がかかります。金融機関から預金口座への出金にも時間が必要になる場合があるため、売却手続きと現金を使える日を分けて考える必要があります。
例えば、売買契約まで数日しかない段階で投資信託を売却しようとしても、手付金の支払日に間に合わない可能性があります。
住宅購入の予定が具体的になった段階で、必要となる資金と支払時期を確認しておくとよいでしょう。
これに対し、iDeCoでは、保有している運用商品を売却して別の商品へ変更することができても、口座内の資金を自由に引き出すことはできません。
例えば、iDeCoで保有している投資信託を売却し、元本確保型の商品に変更した場合でも、受給要件を満たすまでは住宅購入資金として利用できない仕組みです。
同じ資産形成でも、普通預金・NISA・iDeCoでは資金の使いやすさが異なります。
住宅購入を検討する際には、資産の評価額だけでなく、必要な時期に現金として利用できるかどうかを確認しておきましょう。
物件価格の全額を借り入れる場合の自己資金を具体例で確認
ここでは、iDeCoで老後資金を積み立てながら、住宅購入を検討している家庭を例に考えてみます。
例えば、次のような資産を保有しているとします。
普通預金が300万円、iDeCoの評価額が400万円で、資産総額は700万円です。
ただし、iDeCoについては受給要件を満たしていないため、住宅購入時に自由に使える現金は普通預金の300万円となります。
この家庭が、3,500万円の住宅を購入すると仮定します。
今回は、物件価格3,500万円の全額を住宅ローンで借り入れ、購入諸費用は自己資金で支払うケースです。
売買契約時には100万円の手付金を支払い、その手付金を購入代金の一部に充当するものとします。
なお、この例では、住宅ローン3,500万円の融資が承認され、決済時に手付金相当額100万円を自己資金へ戻す形で精算できることを前提とします。
購入諸費用は物件価格の10%に当たる350万円を見込み、引越し費用や家具・家電の購入費用については別に用意する設定です。
必要な資金を表にすると、次のようになります。
| 項目 | 仮の金額 |
|---|---|
| 物件価格 | 3,500万円 |
| 住宅ローン借入予定額 | 3,500万円 |
| 購入代金に対する頭金 | 0円 |
| 購入諸費用(物件価格の10%) | 350万円 |
| 引越し・家具家電の費用 | 30万円 |
| 購入後に残しておきたい生活予備費 | 100万円 |
| 必要な自己資金(予備費を含む) | 480万円 |
| 利用できる普通預金 | 300万円 |
| 不足する自己資金 | 180万円 |
※金額は説明のための仮定です。売買契約時には、別途100万円の手付金を一時的に支払う必要があります。本例では、物件価格全額の融資と手付金相当額の精算が認められる前提のため、手付金100万円を必要な自己資金480万円に重複計上していません。実際の精算方法は金融機関・売買契約の条件によって異なります。
この条件では、購入諸費用350万円、引越し・家具家電の費用30万円、購入後に残しておきたい生活予備費100万円を合わせて、480万円の自己資金が必要となります。
一方、普通預金は300万円なので、180万円不足する計算です。
iDeCoに400万円の積立資産があっても、その資金を不足分に充てることはできません。
ここで検討したいのは、必要な現金をどのように準備するかということです。
例えば、購入時期を少し先に延ばして貯蓄を増やす方法や、家具・家電の購入時期を分ける方法が考えられます。
また、購入諸費用は仲介手数料の有無によっても変わります。
買主様の仲介手数料が無料となる物件であれば、その分だけ購入時の費用を抑えられます。
住宅ローン商品によっては購入諸費用の一部を借入対象にできる場合もありますが、今回は諸費用を自己資金で負担する前提としているため、借入額には含めていません。
なお、手付金100万円については、売買契約時に現金で支払った後、決済時にどのように精算するかを確認する必要があります。
物件価格の全額を住宅ローンで借り入れる場合でも、手付金相当額を自己資金へ戻す取扱いが認められなければ、融資額や必要な現金を改めて検討することになります。
そのため、物件を購入する前に、金融機関と仲介会社の双方に資金の流れを確認しておくと安心です。
この例で伝えたいのは、資産総額が700万円あっても、住宅購入時に自由に使える現金は300万円という違いがあることです。
住宅購入の予算を考える際には、資産総額だけで判断せず、購入諸費用として必要になるお金と、入居後に残しておきたい現金を分けて考えることが役立ちます。
物件価格の全額を借り入れるか、頭金を用意するか
住宅購入では、物件価格の全額を住宅ローンで借り入れ、購入諸費用を自己資金で支払う方法があります。
頭金を用意せずに購入代金を借り入れるため、手元の現金を購入諸費用や入居後の生活費に充てやすくなる点が特徴です。
一方、住宅ローンの借入額が大きくなる分、毎月の返済額や総返済額も増えることになります。
例えば、3,500万円の住宅を購入する場合、物件価格の全額を借り入れれば住宅ローンは3,500万円です。
これに対して、頭金500万円を用意すれば、借入額を3,000万円に抑えられます。
金利や返済期間などの条件が同じであれば、借入額が少ない方が毎月の返済額や総返済額を抑えられます。
また、住宅ローンの種類によっては、自己資金の割合が借入金利にも関係します。
住宅金融支援機構と民間金融機関が提携するフラット35では、住宅の建設費や購入価額に対する借入額の割合を「融資率」と呼び、融資率が9割以下か9割超かによって借入金利が異なります。
例えば、物件価格3,500万円の住宅を購入し、購入諸費用は自己資金で負担して、物件価格の全額3,500万円をフラット35で借り入れる場合、融資率は100%となり、9割超の金利区分に該当します。
なお、フラット35では一定の諸費用も借入対象にでき、その場合の融資率の計算には取扱金融機関による確認が必要です。
ただし、フラット35の条件がすべての住宅ローンに共通するわけではありません。金融機関によって金利や手数料、審査条件は異なります。
また、頭金を多く用意することだけを優先すると、購入後に手元の現金が少なくなる場合があります。
住宅購入後には、家具・家電の買い替えや住宅設備の修理、固定資産税など、さまざまな支出が発生します。
マンションであれば管理費や修繕積立金、戸建であれば将来の外壁や屋根、設備の修繕費も考えておきたいところです。
また、転職や休職、家族構成の変化などにより、収入や支出が変わる可能性もあります。
そのため、頭金をいくら用意するかを検討する際には、住宅ローンの毎月返済額だけでなく、購入後の生活費や予備費をどの程度残せるかも確認しておくと安心です。
iDeCoを利用している方は、住宅購入後も老後資金の積立てを続けることになります。
住宅ローンの借入額を抑えることと、今後の生活に必要な現金を確保すること。その両方を見ながら、自分の家計に合った資金配分を考えることが大切です。
住宅購入が近づいたらiDeCoの掛金を見直せる?
住宅購入に向けて現金を増やしたい場合、毎月のiDeCo掛金を見直す方法もあります。
iDeCoは、加入後も拠出限度額の範囲内で掛金額を変更できます。
掛金額の変更は、原則として12月分から翌年11月分までの拠出単位期間に1回です。変更には所定の届出が必要となり、制度改正に伴う特例など、通常とは異なる取扱いが設けられる場合もあります。
例えば、毎月2万円をiDeCoに拠出している方が、掛金を1万円に減額した場合、毎月1万円を普通預金などに回せるようになります。
1年間では12万円となるため、住宅購入に向けた貯蓄を増やす一つの方法です。
ただし、iDeCoの掛金を減らすと、その分だけ所得控除の対象額も少なくなります。実際の税負担への影響は、所得やほかの控除の適用状況によって異なります。
また、iDeCoでは掛金の拠出を停止することもできます。
その場合、加入者資格を喪失するための届出を行い、「運用指図者」となって、それまで積み立てた資産の運用を続ける方法があります。
ただし、掛金を停止しても、積立済みの資産を自由に引き出せるようにはなりません。
運用指図者となった後も、資産はiDeCoの制度内で管理され、原則として受給要件を満たすまで引き出せません。
また、掛金の拠出を停止している間も、口座管理などに関する手数料がかかる場合があります。
再び掛金の拠出を始めたい場合には、改めて加入の手続きが必要です。
減額や停止を検討する際は、加入している金融機関などの運営管理機関に、必要な手続きと反映時期を確認してください。
なお、2026年12月1日からはiDeCoの拠出限度額が引き上げられ、老後資金を積み立てる選択肢が広がります。
一方、数年以内に住宅購入を予定している方にとっては、掛金を増やすことだけでなく、契約時や引渡し時に必要な資金を確保できるかどうかも考える必要があります。
iDeCoの掛金を維持するのか、減額するのか、一定期間停止するのか。住宅購入までの期間や家計の状況によって、選び方は変わります。
老後資金を準備することと、住宅購入に必要な現金を確保することを分けて考えながら、無理なく続けられる方法を検討したいものです。
なお、iDeCoの具体的な手続きや運用商品については加入先の金融機関などへ、個別の税務上の判断については税理士または税務署へご確認ください。
まとめ|住宅購入資金と老後資金は使う時期で考える
iDeCoは老後に向けた資産形成を支える制度ですが、原則として受給要件を満たすまでは積立資産を自由に引き出せません。
そのため、住宅購入を検討する際には、まだ受給できないiDeCoの評価額を購入諸費用や頭金に含めず、実際に利用できる資金を基に計画を立てる必要があります。
普通預金は必要なときに使いやすく、NISAで保有する投資商品は途中売却によって現金化できます。ただし、NISAについては価格変動や売却代金を受け取るまでの日数に注意が必要です。
また、物件価格の全額を住宅ローンで借り入れる場合でも、契約時の手付金や購入諸費用、引越し費用など、現金を必要とする場面があります。
購入諸費用は一般的に物件価格の5〜10%程度が目安となりますが、物件や住宅ローンの条件、仲介手数料の有無によって実際の金額は変わります。
頭金を用意すれば住宅ローンの借入額を抑えられる一方、物件価格の全額を借り入れれば、手元の現金を購入諸費用や購入後の生活費に充てやすくなります。
どちらの方法が適しているかは、住宅ローンの借入条件や現在の貯蓄、今後の支出によって異なります。
また、住宅購入が近づいた場合には、iDeCoの掛金を減額・停止して、今後の貯蓄に回す金額を調整する方法もあります。
大切なのは、保有している資産の総額だけでなく、何のために、いつ使うお金なのかを考えることです。
これから住宅購入を検討する方は、現在の預貯金や積立資産を確認し、住宅購入に必要な現金と、老後に向けて残しておきたい資産を分けて考えてみてはいかがでしょうか。
購入時に必要となる諸費用と住宅ローンの借入予定額が具体的になれば、希望する住まいの購入に向けた計画も立てやすくなります。
参考情報
確認日:2026年10月22日
国民年金基金連合会「iDeCo加入者・運用指図者の方へ|給付について」
https://www.ideco-koushiki.jp/join/benefits.html
国民年金基金連合会「iDeCo加入者・運用指図者の方へ|各種変更届について」
https://www.ideco-koushiki.jp/join/
金融庁「NISAを知る」
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/index.html
一般社団法人全国銀行協会「住宅ローンの諸費用」
https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-d/5217/
国土交通省「不動産取引における手付金等の保全について」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html
住宅金融支援機構「フラット35 ご利用条件」
https://www.flat35.com/loan/lineup/flat35/conditions/index.html
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