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賃貸住宅を退去するとき、思っていたより高い原状回復費用を請求されて驚く方は少なくありません。

「普通に住んでいただけなのに、クロスの張替え費用まで払うの?」
「敷金が戻らないどころか、追加で請求された」
「退去立会いでサインしてしまったけれど、あとから考えると納得できない」

このような悩みは、決して珍しいものではありません。

賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブルは、全国の消費生活センター等にも多く寄せられています。退去時の費用負担は、契約書、入居時の状態、使い方、損傷の内容、経過年数などを見ながら整理する必要があります。

この記事では、原状回復の基本的な考え方、借主負担になりやすいもの・貸主負担と考えやすいもの、請求を受けたときの確認ポイント、相談先についてわかりやすく解説します。

くらしのマーケット

はじめに|退去時の原状回復費用で悩む方は少なくありません

賃貸住宅の退去時に多いのが、敷金精算や原状回復費用をめぐるトラブルです。

たとえば、退去後に届いた明細を見たら、ハウスクリーニング費用、クロス張替え費用、床の補修費用、エアコン清掃費用などが並んでいて、敷金がほとんど戻らない。場合によっては、敷金を超える追加費用を求められることもあります。

もちろん、借主の不注意で壊したものや、通常の使い方を超える汚れ・傷については、借主負担になる場合があります。

一方で、長年住んでいれば自然に古くなる部分や、普通に生活していて生じる程度の損耗まで、すべて借主が負担するとは限りません。

まず大切なのは、請求された金額を見てすぐに「支払うしかない」と決めつけないことです。契約内容と請求明細を落ち着いて確認し、疑問点があれば管理会社や貸主に説明を求めることから始めましょう。

原状回復トラブルは毎年多く相談されています

国民生活センターの公表情報では、賃貸住宅の原状回復トラブルに関する相談件数は、2022年度が12,885件、2023年度が13,273件、2024年度が13,277件とされています。

つまり、原状回復をめぐる相談は、近年も年間1万3,000件前後で推移しています。

賃貸住宅の退去は、進学、就職、転勤、結婚、住宅購入など、生活の節目に起こることが多いものです。引越し準備で忙しい時期に退去立会いや精算の話が出るため、細かい内容を確認しないまま話が進んでしまうこともあります。

特に、2月から4月にかけては転居が増えやすく、退去時の相談も増えやすい時期です。

退去費用に違和感がある場合は、感情的に争うのではなく、契約書、写真、明細、ガイドラインをもとに、どの部分に疑問があるのかを整理することが大切です。

そもそも原状回復とは「新品に戻すこと」ではありません

原状回復という言葉を聞くと、「借りたときの状態に戻すこと」と思う方も多いかもしれません。

しかし、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復について、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用によって生じた損耗や毀損を復旧することとして整理しています。

わかりやすく言えば、原状回復は「部屋を新品同様に戻すこと」ではありません。

普通に生活していれば、クロスは日焼けします。床に家具の跡がつくこともあります。設備も時間の経過とともに古くなります。

このような経年変化や通常損耗は、一般的には賃料の中に含まれているものとして考えられています。

一方で、タバコのヤニ汚れ、ペットによる傷や臭い、飲み物をこぼしたまま放置したシミ、壁に大きな穴をあけた場合などは、通常の使い方を超えた損傷として、借主負担になる可能性があります。

大事なのは、「古くなったからすべて借主負担」でも、「住んでいただけだから一切負担なし」でもないということです。

具体的な判断は、契約内容や部屋の状態によって変わります。

借主負担になりやすいもの・貸主負担になりやすいもの

退去費用で迷いやすいのは、「これは普通の生活によるものなのか」「借主の使い方が原因なのか」という点です。

ここでは、一般的な考え方を整理します。

経年変化や通常損耗は、原則として借主負担とは考えにくい

経年変化とは、時間の経過によって自然に古くなることです。

たとえば、日光によるクロスの変色、畳やフローリングの色あせ、設備の老朽化などが考えられます。

通常損耗とは、普通に生活していて自然に生じる程度の傷みです。家具を置いたことによる床のへこみ、冷蔵庫の後ろの電気焼け、通常の範囲内の画びょう跡などは、ケースによって通常損耗として整理されることがあります。

民法第621条でも、賃借人の原状回復義務について、通常の使用や収益によって生じた損耗、経年変化は除く考え方が示されています。

ただし、どこまでが通常損耗といえるかは、部屋の状態や契約内容によって変わります。写真や明細を見ながら個別に確認する必要があります。

故意・過失や手入れ不足による損傷は、借主負担になる場合がある

借主の使い方によって生じた損傷は、借主負担になる可能性があります。

たとえば、次のようなケースです。

・物をぶつけて壁に大きな穴をあけた
・飲み物をこぼしたまま放置し、床にシミや腐食が生じた
・掃除をほとんどせず、カビや汚れが広がった
・タバコのヤニや臭いが強く残っている
・ペットによる傷や臭いがある
・結露を放置してカビが広がった

このような場合でも、請求額のすべてがそのまま妥当とは限りません。

補修の範囲が広すぎないか、経過年数が考慮されているか、単価が極端に高くないか、見積書の内容を確認することが大切です。

特約がある場合は、契約書の内容を確認する

賃貸借契約では、ハウスクリーニング費用、エアコン清掃費用、鍵交換費用、畳の表替え費用などについて、特約が定められていることがあります。

特約がある場合は、まず契約書や重要事項説明書を確認します。

ただし、特約が書かれていれば何でも有効というわけではありません。借主に通常の原状回復義務を超える負担を求める内容については、契約時に具体的に説明されていたか、負担内容が明確か、借主がその内容を理解して合意していたかなどが問題になる場合があります。

「契約書に書いてあるから絶対に支払わなければならない」とも、「特約だから必ず無効」とも言い切れません。

内容に疑問がある場合は、消費生活センターや専門家に相談しながら確認すると安心です。

退去時に原状回復費用を請求されたら確認したいこと

退去後に精算書や請求書が届いたときは、金額だけを見て判断しないようにしましょう。

見るべきポイントを順番に整理します。

契約書・重要事項説明書・特約を確認する

まず確認したいのは、契約書、重要事項説明書、入居時の説明資料です。

特に、次の項目を見ておきましょう。

・敷金の扱い
・退去時のハウスクリーニング費用
・エアコン清掃費用
・鍵交換費用
・畳、襖、障子、クロスの負担区分
・ペット飼育や喫煙に関する特約
・短期解約違約金の有無

請求された費用が、契約書のどの条項に基づいているのかを確認します。

管理会社に問い合わせる場合も、「この費用は契約書のどの部分に基づくものですか」と聞くと、話が整理しやすくなります。

入居時と退去時の写真を見比べる

原状回復トラブルでは、「その傷や汚れがいつからあったのか」が問題になることがあります。

入居時に撮影した写真があれば、退去時の写真と見比べましょう。

入居時からあった傷、設備の不具合、クロスの汚れなどが確認できれば、借主負担ではないと説明しやすくなります。

写真がない場合でも、入居時のチェックシート、管理会社へのメール、修理依頼の履歴などが残っていないか確認します。

最近はスマートフォンで簡単に写真を残せるため、入居時には、壁、床、建具、水回り、エアコン、バルコニーなどを撮影しておくと、退去時の助けになります。

見積書や精算明細の内訳を見る

退去費用の請求では、「原状回復費用一式」とだけ書かれていると、内容がわかりません。

その場合は、内訳を確認しましょう。

たとえば、クロス張替えであれば、どの部屋のどの面を何㎡張り替えるのか。床補修であれば、補修なのか全面張替えなのか。ハウスクリーニング費用であれば、契約書に定めがあるのか。

内訳がわからないままでは、妥当性を判断しにくくなります。

管理会社や貸主に確認するときは、感情的に「高すぎる」と伝えるよりも、「内訳を確認したい」「どの箇所の補修費用なのか知りたい」と伝える方が、話が進みやすくなります。

経過年数が考慮されているか確認する

国土交通省のガイドラインでは、借主負担になる場合でも、建物や設備の経過年数を考慮する考え方が示されています。

たとえば、長く住んでいた部屋で、クロスや設備がすでに古くなっている場合、新品交換費用の全額を借主が負担する形になると、負担が重くなりすぎることがあります。

もちろん、具体的な負担割合は契約内容や損傷の程度によって変わります。

ただ、請求書を見たときに「経過年数が考慮されているのか」「毀損した部分だけでなく、全面張替えになっていないか」は確認しておきたいところです。

原状回復トラブルを防ぐために入居時からできること

退去時のトラブルは、入居時の準備である程度防ぎやすくなります。

すでに退去が近い方だけでなく、これから賃貸住宅に入居する方も、次の点を意識しておくと安心です。

入居時の写真を残しておく

入居したら、荷物を運び込む前に室内の写真を撮っておきましょう。

撮影しておきたいのは、壁、床、天井、建具、キッチン、浴室、トイレ、洗面台、エアコン、給湯器、バルコニーなどです。

傷や汚れがある部分は、少し離れた写真と近くからの写真を両方残しておくと、場所がわかりやすくなります。

写真は日付がわかる状態で保存しておくと、後から確認しやすくなります。

気になる傷や汚れは早めに連絡する

入居後に傷や汚れ、設備の不具合に気づいた場合は、早めに管理会社や貸主へ連絡しましょう。

連絡は電話だけでなく、メールや問い合わせフォームなど、記録が残る方法を併用すると安心です。

「入居時からこの状態でした」と後から伝えても、証拠がないと話がこじれやすくなります。

気づいた時点で写真を撮り、日付が残る形で報告しておくことが、退去時のトラブル予防につながります。

退去立会いではその場であわてて署名しない

退去立会いの場で、原状回復費用の確認書や負担承諾書のような書面に署名を求められることがあります。

内容に納得できる場合は問題ありませんが、金額や負担内容に疑問がある場合は、その場であわてて署名しないようにしましょう。

「内容を確認してから回答します」
「明細を見てから判断したいです」
「契約書と照らし合わせて確認します」

このように伝えて、いったん持ち帰ることも考えられます。

署名や押印をすると、あとから争いにくくなる場合があります。迷ったときは、消費生活センターなどに相談してから対応する方が安心です。

納得できないときの相談先

原状回復費用に納得できない場合、まずは管理会社や貸主に説明を求めます。

それでも話がまとまらないときは、第三者の相談窓口を利用することもできます。

消費者ホットライン188

消費者ホットライン188は、最寄りの消費生活センターや消費生活相談窓口を案内する全国共通の電話番号です。

「いやや」と覚えるとわかりやすい番号です。

退去費用の請求内容に疑問がある、敷金精算に納得できない、管理会社との話し合いがうまく進まないといった場合は、まず相談先を探す入口として利用できます。

千葉県消費者センター

千葉県内にお住まいの方は、千葉県消費者センターに相談できる場合があります。

千葉県消費者センターでは、消費生活や契約トラブルに関する相談を受け付けています。電話相談の受付時間や相談方法は変更されることがあるため、相談前に千葉県の案内ページで最新情報を確認しましょう。

千葉県の消費生活相談の概要でも、不動産貸借に関する相談として、退去時の高額な原状回復費用や、保証金・敷金に関するトラブルが取り上げられています。

千葉県内でも、賃貸住宅の退去費用をめぐる相談は身近な問題といえます。

市原市消費生活センター

市原市にお住まいの方は、市原市消費生活センターへの相談も検討できます。

市原市消費生活センターは、市原市内の消費生活に関する相談窓口です。賃貸住宅の退去費用、契約トラブル、請求内容への疑問などについて、相談できる場合があります。

相談する際は、契約書、重要事項説明書、退去時の精算明細、見積書、写真、管理会社とのやり取りの記録などを手元に用意しておくと、状況を説明しやすくなります。

金額や法的判断が必要な場合は専門家へ相談する

消費生活センターでは、相談内容に応じて助言を受けられる場合があります。

一方で、具体的な法律判断、交渉代理、訴訟対応などが必要になる場合は、弁護士などの専門家へ相談する必要があります。

また、少額訴訟や民事調停などの手続きが関係する場合もありますが、どの方法が適切かは事案によって異なります。

「いくらなら支払うべきか」「この特約は有効か」「相手方との交渉をどう進めるか」といった個別判断は、契約書や証拠を確認したうえで判断する必要があります。自己判断で進めるのが不安な場合は、早めに相談先を探しましょう。

賃貸から購入を考えるときも、契約条件と費用の確認が大切です

原状回復トラブルは賃貸住宅の話ですが、「住まいの契約条件と費用を事前に確認する」という意味では、住宅購入にも共通する部分があります。

賃貸では、敷金、原状回復費用、特約、退去時の負担区分を確認します。

住宅購入では、物件価格だけでなく、仲介手数料、登記費用、住宅ローン費用、火災保険料、固定資産税等の精算金、管理費・修繕積立金、リフォーム費用などを確認します。

どちらも、契約前に費用の全体像をつかんでおくことが大切です。

特に住宅購入では、「月々の支払いは大丈夫そう」と思っていても、諸費用や将来の維持費を含めると、家計への負担感が変わることがあります。

賃貸から購入へ住まい方を変えるときは、物件の良し悪しだけでなく、契約条件、住宅ローン、諸費用、引渡し後の生活費まで含めて考えると安心です。

不動産の契約は、あとから「知らなかった」と感じる部分が出やすいものです。

だからこそ、契約前に疑問点を一つずつ確認し、納得できる形で進めることが大切です。

参考情報

確認日:2026年6月14日

・独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」
・独立行政法人国民生活センター「住み始める時から、『いつか出ていく時』に備えておこう!-賃貸住宅の『原状回復』トラブルにご注意-」
・国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
・国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
・e-Gov法令検索「民法」第621条
・消費者庁「消費者ホットライン」
・千葉県「消費者センター」
・千葉県「令和5年度の消費生活相談の概要について」
・国民生活センター「市原市消費生活センター」

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